毎日新聞朝刊2003年7月13日から

[ひと]
スワラジ・クマール・バナジーさん=日本茶の神髄学んだ自然農法の紅茶王

英国の大学を卒業後、シュタイナー農法で紅茶を生産。99年から3年連続で英皇太子が選ぶ優秀有機食品賞を受賞。55歳。

 ◇ダージリン産「玉露」で、インドの貧困解決したい

 知ってましたか。緑茶も紅茶も、葉っぱは一緒。完全発酵させると紅茶、不発酵が緑茶、半発酵なら烏龍(ウーロン)茶。であるならば最も高価で手間のかかる玉露を、紅茶の本場・インドで安く大量生産できないか。そんな野心を抱いたダージリンの紅茶王が、京都で日本古来の本格的な手もみ製法を学んで帰国した。

 「健康食品ブームのせいか、欧米で玉露が人気です。特に機械作りではない、手もみが素晴らしい」。ダージリンで最も古いマカイバリ茶園の4代目オーナーだ。700ヘクタールの広大な敷地にはトラやヒョウもいる。

 化学肥料や農薬を一切使わず、腐葉土や牛糞(ぎゅうふん)を活用するバイオダイナミック(完全自然調和)農法が売り物だ。英国王室御用達となり、ダライ・ラマから引きが入り、輸入紅茶としては有機JAS(日本農林規格)認定第1号にもなった。

 この自慢の葉っぱを玉露に使おう、というのだ。「7時間も手もみするような技術は、人件費の安いインドの方が圧倒的に有利です」。日本茶にとっては手ごわいライバル出現か。

 事業が成功すれば、二つのことを実現したいという。一つは、水不足解決のため500メートル下流の川から揚水する発電事業。さらには「10億人のうち7割が貧困のインドを豊かにしたい」とも。

 自然と野心をミックス。ダージリン産の有機・手もみ玉露は、どんな味がするのだろうか。<文・倉重篤郎/写真・近藤卓資>

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